北方三国志を語ろう!―曹操に恋した瞬間
先日、図書館司書の通信講座のレポートを書いていました。
学生時代から3年ぶりくらいにレポートというものを書きましたが、書き方の勘がすっかり鈍っていたのか、2,000字のレポートに1週間もかかってしまいました。
何にでも勘やコツがあるものだと、妙に感心した次第です(笑)
[曹操(155~220)
宦官の養子の子として生まれる。朝廷軍の将校として黄巾の乱の平定に従事し、頭角を現す。官渡の戦いに勝利し、華北をほぼ平定。南下し、天下統一を目指すが、赤壁の戦いで孫権・劉備連合軍に敗れ、頓挫した。
魏王にまで登り、漢朝を形骸化させたが遂に皇帝にはならなかった。
詩作にも優れ、その作は現代にも伝わっている。]
さて、今日の本題に入りましょう。
私は子どもの頃から三国志が大好きで横山光輝に始まって、三国志関係の小説や伝記、歴史書の類いを色々と読み漁ってきました。
ハードボイルド小説の第一人者が描く三国志の、無常感漂う世界観とハードボイルド風味に味付けされたお馴染みの英雄たちは、私の琴線を震わせて止みませんでした。
このブログの中でもいつか取り上げようと思っていましたが、今回その念願を実現させることにします。
ただ、北方三国志は全13巻と長く、私の思い入れも深いので、とても1,2回では書ききれない。
そこで、登場人物を一人ずつ取り上げる不定期のシリーズにすることにします。
何しろ、三国志は登場人物の一人一人がとてもキャラが濃いので、そんなアプローチもおもしろいんじゃないかと思います。
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(北方三国志第1巻です。価格も手頃、BOOK・OFFにもよく並んでますので、この機会にぜひ。おもしろさは請け合いです。)
さて、記念すべき第1回目の主人公は、三国最大の国である魏の事実上の建国者・曹操です。
曹操という人物、だいたい小説では野望に燃え、そのためなら手段を選ばない人物として描かれます(『白い巨塔』の財前先生みたいな感じですね)。
正直なところ、私はこういう人が苦手でして、曹操もあまり好きになれませんでした。
特に赤壁の戦いで敗れ、あと一歩のところで天下を逃した後の曹操が実にいい。
それまで生き残るために、そして天下のために後ろを振り返る間もなく、ひたすら突き進んできた彼が、初めて過ぎ去りし日々を省みます。
それまでがギラギラした輝きであるとしたなら、赤壁後の曹操は「燻し銀」であると言っていい。
野心の鎧が取れて、一人の人間に還っていく曹操の姿を見るうちに、私はいつの間にか彼のことが好きになっていました(恋ってこんな感じで落ちるんですかね(笑))。
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(今回引用した場面が収められている巻です。曹操、張飛の死から夷陵の戦いの直前までが描かれています。この巻あたりから、主だった登場人物が次々死んでいきます・・・)
好きなセリフやシーンを挙げていくと切りがありませんが、一つだけ曹操の臨終の場面を挙げたい。
この小説での曹操は死の淵に立って、一つの夢を見ます。
それは小さな庵で畑を耕し、詩を作りながら一人暮らす夢でした。
以下、そのシーンを引用したいと思います。
作物を作る喜び、生きることの喜び。詩にして、虚空に散っていくだけで充分ではないか。
喜びが、孤独なものであることが、はじめてわかったような気がした。人と共有できる喜びも、当然ある。しかし、ひとりきの深い喜びもあるのだ。なによりも、言葉が流れるように出てくるのが嬉しい。聞いているのは、作物であり、小川であり、大地であり、蒼空だった。
「なにもいらぬな」
自分の呟きで、眼が覚めた。
どうです?
その生涯を賭けて天下を追い続けた男が、最期に見た夢は、皇帝になる夢でも何でもなくて、ただ一人の人間として、自分だけの喜びを噛み締める夢だった。
これって、何だか深いと思いませんか?
私はその意味を知ることができる程には、まだ人生について分かっていないのかも知れません。
けれど、理由はよく分からないけど、このシーンが心にかかる。
私はこのシーンを何度となく思い出して、それについて考える。
小説の一つのシーンにここまで思い入れられるってのも、ある意味幸せかもしれません。
最強武将伝「三国演義」OP
(5,6年前に日中共同製作で三国志のアニメが放送されました。これはその主題歌ですが、北方三国志の世界観に不思議とマッチしている気がします。私が北方三国志を読む時、よく脳内BGMとして流れます(笑))
今日はこんなところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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よろしくお願いします。