焼け跡の首相たち―五百旗頭真『占領期』
特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
[東久邇宮稔彦(1887~1990 在任:45年8月17日~同10月9日)
陸軍大将でもある皇族出身の首相。
戦前に皇籍を離脱しようとしたり、戦後に新興宗教の教祖に祭り上げられたり、「最も長生きした首相経験者」としてギネスに載ったりと、何かと逸話に事欠かない人物。
著書に『やんちゃ孤独』]
校正の勉強に加えて図書館司書の勉強も始めたために、ブログの記事の原稿を書く時間が少なくなってる今日この頃です。
でも、書きたいことはまだたくさんありますので、これからも自分のペースで、週に一度は更新を続けていきたいと思います。
さて、本題に入りましょう。
私は大学時代に戦後史の研究をしていて、今にして思えば私の青春は戦後史に捧げられました。
戦後史を研究しようと思った理由やきっかけはいくつかあるんですが、今日はその内の一つである罪作りな(?)一冊の本をご紹介したいと思います。
五百旗頭真『占領期』。
連合軍による占領時代(1945~1952)に政権を担った、東久邇宮稔彦、幣原喜重郎、吉田茂、片山哲、芦田均の5人の首相たちと、その政権の軌跡を描いた歴史書で、著者は戦後政治・外交史の大家です。
- 作者: 五百旗頭真
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/07/11
- メディア: 文庫
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戦後の首相といえば吉田茂、田中角栄、小泉純一郎、それに中曾根康弘あたりの名前が浮かぶでしょうか?
学校教育では近現代史、特に戦後史は端折られることが多いせいか、一般的にはさほど知名度は高くないように思われます。
ましてや占領期の政権は概して短命(1年以上政権を維持できたのは吉田だけ)なものが多く、さらにその傾向は強いかもしれません。
[幣原喜重郎(1872~1951、在任:45年10月9日~46年5月22日)
外交官出身。
戦前に数度外相を務めた。
戦時中には事実上引退していて、彼が首相になった時、「まだ生きていたのか」と口を滑らした記者もいたらしい]
そんな中、本書は東久邇宮と幣原の政権に紙幅の過半数を費やしています。
敗戦の二日後(8月17日)に成立した東久邇宮稔彦内閣は史上最初で最後の皇族内閣です。
ちなみに彼の在任日数54日は憲政史上の最短記録でもあります。
東久邇宮政権には、国内外に展開する日本軍を武装解除させ、占領軍を受け入れるという使命がありました。
敗戦の前日に抗戦派の青年将校たちがクーデター未遂を起こしたこと(宮城事件)が象徴的に示しているように、軍内には敗戦を肯じない勢力が根強く存在していました。
彼らの暴発を未然に防いだ東久邇宮政権の成した仕事の意義は大きかったといえるでしょう。
[吉田茂(1878~1967、在任:46年5月22日~47年5月24日、48年10月15日~54年12月10日)
言わずと知れた「戦後の名宰相」。
彼も外交官出身。
ちなみに、5回首相になったのは日本では吉田だけです。
書きたいことは色々ありますけど、ここでは割愛。
著作に『大磯随想』、『回想十年』]
東久邇宮の後継首班となった幣原に与えられた課題は、新憲法の制定でした。
その立案過程も含めて、特に幣原のような戦前からの政治家にとっては受け入れ難いものもあったでしょう。
幣原の内心はどうあれ、あるいは憲法自体の是非はどうあれ、新憲法を受容しなければ、戦後という時代が始まらなかったことは間違いないでしょう。
東久邇宮と幣原、在任期間こそ短いですが、それぞれに戦後の日本にとって欠くべからざる仕事をした、その二人の政権にスポットライトを当てたのが本書です。
[片山哲(1887~1978、在任:47年5月20日~48年3月10日)
総選挙の結果を受けて成立した、3党連立内閣を率い、日本史上初の社会主義政党出身の首相となる。
しかし、3党が拮抗した政権運営は困難を極め、あえなく辞職]
悲惨な戦争(もちろん、日本人が悲惨な目に「遭わした」人びとがいたことも忘れてはいけませんが)から焼け跡を経て、日本人は民主的で平和で豊かな国をつくりました。
もちろん、その過程で後ろ暗いことや反省すべき点はあったにせよ、そのこと自体は評価されるべきだと思います。
そして、その功罪を知りたいと思い、私は戦後史を研究しました。
大学を出て研究からは離れましたが、戦後史について自分なりに勉強し続けることは、私にとっては今でも大きなテーマです。
[芦田均(1887~1959、在任:48年3月10日~同10月15日)
外交官出身。
宴席でもどこでも、几帳面にメモを取っていたらしく、「メモ魔」と呼ばれていたんだとか。
彼の残した『芦田均日記』は占領期の政治史研究を読むとよく出てきます]
著書の魅力的な語り口もあり、この本を読んでいると歴史の重大場面や、政治家たちが国づくりに苦闘する、まさにその場に居合わせているような錯覚を覚えます。
その錯覚が二十歳前の私をして、戦後史の世界へ足を踏み入れさせたのかもしれません。
歴史教育では省みられることが少ないかもしれませんが、今の日本を知るためにも戦後という時代を知ることが必要だと思います。
まずはその原点として、「焼け跡の首相たち」の姿をお読みになってはいかがでしょうか。
今日はこんなところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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